笑う経営 平成27年9月

1タヌキのおなか

warau201509-1毎日のように熱中症患者が運ばれた、恐ろしく暑い夏も終わり、9月に入って、すっかり涼しくなって(いると良いのですが)お月見の時期を迎えます。

月夜といえば証城寺の狸囃子の歌にあるように、なぜかタヌキが出てきて腹鼓を打ちます。手話でもお腹をポンポンと叩くしぐさが「タヌキ」を表しています。それほどタヌキといえば腹鼓のイメージがあります。

タヌキの腹鼓は「狸腹鼓」(たぬきのはらつづみ)という狂言があるくらいだから、結構古くから言われているようです。メス狸が尼に化けて猟師に殺生を戒めるが、犬に見破られ、命ごいに腹鼓を打ち、すきを見て逃げるという話です。

warau201509-2証城寺の伝説では、化け物が現れるため荒れ寺となった証城寺に西国から三味線が得意な了然というお坊さんがやってきてお寺をきれいにしていると、化け物が現れたり、お寺の周りで大きな音が鳴ったりしたけれど意に介さず、せっせとお寺を修復しました。

ある日の夜更け、外で大きな太鼓がドンドコ、小さな太鼓がポンポコ鳴るのが聞こえてきて、外を見ると庭にたくさんのタヌキがお腹をポンポコ打ち鳴らしていました。了然は三味線をとるとタヌキの太鼓に呼応するように三味線を鳴らし続けます。タヌキも了然に負けじと腹を打ち鳴らし、踊ります。了然と狸は三日三晩、月夜の下で、踊りと音楽の合戦を続けました。ところが四日目、タヌキたちは現れませんでした。了然がタヌキを探して竹やぶの奥に入って行くと、そこには大きな狸が、大きなお腹を破って息絶えていました。

まさか本当にタヌキが自分のお腹をポンポコと打つわけではないと思いますが、どうして狸は腹鼓を打つといわれるようになったのでしょうか。

そいういう疑問を解決するには、夏休みに放送されるNHKラジオのこども科学電話相談に訊いてみるに限りますが、残念ながら中学3年生までが対象なので電話をかけることができません。そのかわり、こんな質問をしている子がいました。

「タヌキのお腹はなんでふくれているんですか?」

回答者は旭山動物園前園長の小菅正夫先生です。

「お腹がふくれたタヌキは見たことないな~。実際のタヌキは太ってないよ」 特に冬のタヌキは痩せていて骨と皮ばかりなのに、タヌキは毛がフワフワしているので、それほど痩せたようには見えないとのこと。

「唯一太っているのは置物のタヌキだよ」

きっと質問した子は信楽焼の狸を見て、本当のタヌキもあんな感じだと思ったのでしょう。

「二本足で立ち上がって傘かぶっておなかがふくれてるたぬき、あれはなんであんなにつくっちゃったのか、おじさん(小菅先生)もわかんない」

今風にいうならタヌキのゆるキャラといっていい信楽焼の狸ですが、あれにはけっこう深い意味があるんです。特に商売をしている人にとっては。

最初に信楽焼で狸の置物を作った人は藤原銕造という人で、11歳の頃から京都清水焼の窯元で修行をしていました。ある月夜の晩、銕造はポンポコポンと腹鼓に興じる狸を見ました。その姿に魅せられた彼は、何とかその姿をやきもので再現しようとタヌキを作り始めたのが最初だそうです。

その後京都清水での修行を終え、信楽に住みついてから本格的にタヌキ作りを始めます。大きな陶器を得意とする信楽の特徴を活かし、等身大のタヌキを次々と作りました。

最初は割りとリアルだったらしいのですが、だんだんと愛らしい顔つき体つきとなり、今のスタイルができあがりました。

信楽焼の狸が有名になったのは、昭和26年、昭和天皇が信楽を行幸されたときのこと、たくさんの狸に日の丸を持たせて沿道に並べて歓迎しました。 昭和天皇はその光景にいたく感激され、歌まで詠まれました。というのも子供の頃からタヌキの置物を集めていたからでした。こうして信楽焼の狸は一躍有名になりました。

 

2タヌキのおしえ

愛嬌のある顔、ギョロっと大きな目、膨らんだお腹、太いしっぽ、大きな陰嚢のタヌキが何故か笠をかぶり、通い帳と徳利を持って二本足で立っています。

さてこの狸にはどういう意味が隠されているのでしょうか。

ご存知の方もいらっしゃると思いますが、これは八相縁喜(または縁起)といって人生や商売を成功させるための八つの意味が込められています。

warau201509-3愛嬌のある顔:常に愛想を良くせよ
ギョロ目:何事も前後左右に気を配り、状況を正しく見よ
膨らんだ白い腹:常に沈着冷静に、また決断は大胆に。また太っ腹であるように(白は腹黒さがないことも表す)
大きな陰嚢:お金は自由自在に、大切に、しっかり運用せよ
太い尾:終わりよければすべてよし。物事の終わりは大きく、しっかりと身を立てること
笠:思いがけない災難、悪事から身を守る手立てをせよ
通帳:信用を表す。商売や世渡りには信用が第一
徳利:飲食には困らず、人徳を身につけるように努力せよ

まさに商売繁盛の秘訣そのものですね。このようにすれば競合店にも勝ち、トップをとれるようになる。つまり他に抜きん出ることができる、他を抜く=タヌキ、ということで縁起をかついでいるのです。

信楽焼のタヌキは縁起物として玄関に置くのがよいようですが、ただ置いても意味はありません。八つの商売繁盛の秘訣を実践することです。

ところでどうしてタヌキは腹鼓を打つのでしょうか。動物の専門家の説では、妊娠したメス狸が生理的な理由から腹を打つのが、いかにもつづみを打っているように見えるのだろうということです。本当かどうか、小菅先生に訊いてみたい。

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