笑う経営 平成30年1月

昨年は地位や名誉がある方々や信用ある企業が自らの行為でその地位、名誉、信用を失うという出来事が多かった。

キレて暴言、暴行を行って、辞職や辞職勧告、落選に追い込まれた国会議員、地方議員、それに引退した横綱。酔ってタクシー車内で暴れた弁護士もいたが、彼もそれ相当の社会責任を負わねばならない。

三菱、日産、神戸製鋼、東レなどの大手企業の相次ぐ不祥事が明るみに出た。企業の信頼は培うのに長年かかっても、崩れ落ちるのはあっという間だ。政府首脳に向けられた疑惑も、何か隠していることが見え見えの歯切れの悪い答弁に、ますます疑惑が深まる。潔白なら辻褄の合う形ですっきり説明して欲しい。万一、不正があったのなら謙虚に謝罪すればいい。ごまかそうとする姿勢が一番よくない。

国内の事件や世界の情勢を見ていると、人間の了見の狭さを実感させられる。米大統領のキャッチフレーズ「アメリカ・ファースト」を追うように東京都知事も「都民ファースト」を掲げた。アメリカの利益を最優先する、都民のためを第一に考える姿勢。一見いいように思えるが、世界はアメリカだけで成り立っているわけではない。日本だって東京都だけでできてはいない。自分の利益だけしか考えない、相手はどうなってもよくて、排除しますという姿勢が見えてしまうと、ファーストという言葉は好きになれない。

企業においても企業ファーストが昂ずると、改竄、隠蔽、法令違反という不正に発展しまうのだろう。最近問題になっているサイレント・チェンジもそういうことから来る面もあろう。もう少し共存共栄意識が持てないものだろうか。(サイレント・チェンジ:下請け会社が無断でメーカーの仕様と違う素材で部品を作り納入することで耐久性などに問題が生じ、想定より早く劣化が発生し製品事故につながる。そのためニトリでは完成品を分解し、全部品の品質を検査する体制を始めた)

今年は戊戌年。似たような字が並んでいるが、戊・つちのえ/戌・いぬ。戊は土の力を意味し、くさかんむりをつければ「茂」となるとおり、大地の力を受けて万物が草木が茂るように繁茂する状態をあらわしている。

戌はやはり地のパワーで生き物を成熟させ産み落とす作用のことだ。戌の日が安産祈願の日として腹帯を締める風習はここからきている。目標達成に向けて努力してきた人にとっては縁起のいい年である。

雑草学という学問がある。文字通り雑草に関する研究を行う。なぜ雑草なんかを、と思うかもしれないが、雑草は田畑や道路にはびこる邪魔できわめて迷惑な存在で、それを駆除すべく研究することは大変有益な学問なのである。

しかし日本人は、抜いても抜いても生えてくる、踏まれても踏まれても立ち上がる雑草に生きる姿勢を学ぶ。雑草魂と呼んで賞賛する。雑草を良いものとしてとらえ、美学を見いだすのは世界広しといえども日本人だけだそうだ。

雑草の対局にあるのは「温室育ち」。温室育ちの草花は自分に合った環境を与えてもらって生育する。だから環境が合わないとうまく育たない。そこからひ弱なイメージがあり、品はあるが打たれ弱い人の形容に用いられる。

一方雑草は強い。雑草が強いのは環境に自分を合わせるからだ。ただし雑草は踏まれても立ち上がるわけではない、と雑草学者はいう。立ち上がってもどうせまた踏まれるから、その都度立ち上がるという無駄なことはせず、踏まれたままでも花を咲かせ種子を残す、というのが雑草の戦略だ。そのようにして雑草はしぶとく生き残っていく。その姿に自分を重ねる中小企業経営者も多いだろう。

作家池井戸潤は中小企業が逆境に遭いながらも必死でもがき生き延びていく姿を描くのが得意だ。空飛ぶタイヤ、下町ロケットなどの作品がドラマ化されている。昨年は伝統的な足袋会社があらたにマラソン競技用シューズの開発に生き残りをかける「陸王」のドラマが高視聴率をとった。

新製品の製造開発には多額の資金が必要だが、資金的な体力はない。銀行の融資姿勢は慎重で、思うように資金調達ができない。大手シューズメーカーからは妨害される。そんな中でもときにくじけそうになりながらも企業の明日のためにビジョンと情熱を足袋シューズに注ぎ、経営者と社員が一丸となって挑戦を続ける。踏まれても踏まれても花を咲かせ、将来への種を蒔こうとする。まさに雑草経営だ。

昨年、お気に入りのかりんとうが突然店頭から姿を消した。製造しているのは地元の有名な企業。商品は地域のスーパーにはどこにも置いてあるし、市内周辺に直営店もあり、東京へも出店した老舗である。

それほどの企業が業績不振で倒産したとは考えられない。やがて事情を知っている人からいきさつを聞いたところ、社長が急死し、事業を引き継ぐ人がいなかったため廃業したことがわかった。
社内に後継者が育っていなかったのはしかたがないとしても、折角の製造ノウハウを会社とともに消してしまうのは実に惜しい。どこか同業他社にノウハウだけでも引き継いでもらえなかっただろうか。会社やメインバンクもそのことを検討したようだがうまくいかなかったと聞く。

折しも2017年版の中小企業白書の主なテーマは「事業承継」だ。中小企業では経営者の高齢化がすすんでいるとし、多くの企業で経営者の世代交代に直面している。国は事業承継がうまくいかないことで、伝統技術が失われていくことを憂慮し、事業承継が円滑にいくよう支援策を打ち出している。税制においても、経営を親族や従業員が引き継いだ場合、先代から譲り受けた株式にかかる相続税などを全額猶予するなど、現在の事業承継税制をさらに拡充すべく検討している。

中小企業では経営者は平均69.3歳で交代している。後継者の内定状況は、後継者が決まっている企業が約5割、候補がいる企業とあわせると約7割。その9割が親族の承継者。

事業承継は親から子へだけでない。社員からの登用や合併、統合、事業譲渡など多様な方法がある。
後継者育成は、経営者になったらすぐに行わなければならない仕事とも言われている。社長の身に起こる突然の出来事で折角の事業を失うことのないよう体制を整えておきたい。葉が伸びたらすぐに新し芽を持つ子宝弁慶草のように。

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