笑う経営 平成28年2月

凶を喜ぶ

warau201602今年一年、どんな年になるか、初詣に出かけておみくじ引いて、吉だ凶だと一喜一憂した方も多いのではないでしょうか。おみくじをラッキー順に並べると、大吉、中吉、末吉、小吉、吉、凶、大凶。最近では大大吉や大大凶もあるとか。

凶を引いたと青くなっている方、たとえ大大凶でも安心して下さい。易は物事に吉凶はないと考えています。

易の原典は易経です。易経は儒教のテキストの一つで、占いというより哲学書というべき書物です。孔子は易経を熟読に熟読を重ねました。そこから韋編三絶という言葉ができました。(韋編三絶:孔子が易の本を繰り返し読んだため、綴紐が三度切れたという故事から、本を何度も繰り返し読むという意)

warau201602-2易経の文は非常に簡潔ですが、象徴的に書かれているため、非常に難解で、何回読んでもよくわかりません。孔子は易経に十篇の注釈をつけてくれました。それでも難しい書物です。

易は自然の様相を八つの基本形にまとめました。「当たるも八卦、当たらぬも八卦」の八卦です。それを2つ重ね、8×8で、64のパターンができます。世の中の諸事万事の様相を易経ではこの64パターン(六十四卦)で説明しているのです。

易にはいかにも困難で、悪そうな、おみくじでいえば大凶のような卦があります。ズバリ「困」です。文字通りとても困った状況です。

「困」は「沢の下に水」という様相をいいます。沢には水があるから沢と水で、一見良さそうに思えますが、易では沢の水が下に流れ出てしまって、沢に水がなくなってしまった状態と見ます。あるべきものがなくて困っている状況です。

易にも凶があるではないか、と思われがちですが、易経は、単に運勢の良し悪しをいうのではなく、どのような姿勢で逆境に立ち向かうべきかが示されているのです。易は物事は流転するということを基本に置いていますので、困難な状況がずっと続くわけではなく、様相は必ず変わっていくと考えます。その中で、状況に応じて正しい態度をとることで吉となるのです。

つまり様相に良し悪しはなく、その中に置かれた人の行動の結果が吉だったり凶だったりするのです。吉凶は運勢にあるのではなく人にあるのです。

昨年末に小説「下町ロケット」(作・池井戸潤)を読みました。合わせてドラマも観ました。ちょうどテレビで阿部寛主演のドラマが放映されていたようですが、私が観たのは以前有料テレビで放映された三上博史主演のドラマをネットで観ました。三上博史のいかにも困った、切羽詰まった表情が主人公の中小企業の経営者、佃航平のイメージにピッタリ合っていました。

佃製作所は突如大口受注先から取引を停止され、売上が激減してしまいます。あるべき売上、あるべき資金がない。まさに易の困卦の状態に陥ります。そんな中、さらに別の大手企業からは特許侵害で訴訟を起こされます。顧問弁護士は普段の取引上発生する法律相談にのってもらっていますが、特許訴訟は不得手でした。

相手の弁護士は大手企業と組んで特許紛争を利用して和解金を勝ち取る、という悪どい手口で中小の弱い企業を潰すことを専門に行なってきました。

倒産も時間の問題となった佃製作所に、特許訴訟に強い弁護士が現れます。その弁護士は、逆に相手に対し特許侵害を提訴するよう社長に提案します。結局裁判は佃製作所が勝訴し、逆に多額の賠償金を得ることができました。それで売上減がカバーされ倒産は免れました。
(弁護士の選定は重要です)

ある日、佃製作所に大手企業(帝国重工)の社員が訪れます。佃製作所が保有しているロケットエンジンの特許を売ってくれないかと申し出を受けます。特許が売れればさらにお金が入り、資金繰りが楽になる、と佃社内は大喜び。しかし航平は考えた末、売却の話を断ります。

航平はもともと宇宙開発機構の研究員で、ロケットエンジンを開発していました。父の会社を継いでからも宇宙への夢が捨てきれず、エンジンの開発に莫大なお金をつぎ込んでいたのです。しかし、その特許は売上にまったく結びついていない技術でした。

帝国重工は、せめて特許を使わせてもらえないかと譲歩しますが、佃社長はそれも断り、部品として納入させてくれと提案します。佃の技術がなければロケットが飛びません。帝国重工は悩んだ末、提案を受け入れます。

一方佃製作所内も意見が割れます。若い社員からは批判が噴出。社長は自分の夢ばかり追っている。会社のためになぜ特許を売らないんだと。技術幹部と経理部長は、航平の方針を理解します。「確かに今、特許を売れば当面の資金繰りは楽なる。だが佃の将来を考えた時、佃は何で生き延びていけるのか」 特許を貸すのか、あるいは部品として技術を売るのか。佃製作所が出した結論は?そしてロケットは飛んだのか。結末は本を読んで下さい。(又はドラマをご覧ください)

易は、困難な時こそ人の真価が決まる。だから自分を見失わず、じっと耐えて時を待てと処し方を教えています。真価とは得意技です。軸足です。自分の企業の軸足は何か。「軸足を外すな」が鉄則です。

今年始まった大河ドラマ「真田丸」。真田家も逆境に置かれていました。逆境だから知恵も出る。大きな相手(徳川家康)の力を利用して築いた、その上田城で家康を退ける。真田家の軸足は、自分の懐に引き込んで戦うこと。それを可能にした真田丸で、大坂の陣で大活躍をするのでした。

笑う経営のテキストにも載っている二宮尊徳の言葉を思い出して下さい。「遠きを図るものは富み、近くを図るものは貧す」

深謀遠慮という姿勢を、経営者や幹部社員には持って欲しいものです。

北海道赤平町にリサイクル機械とロケットを作る中小企業があります。まさに下町ロケットを地で行く会社です。社長の植松努さんは、子供の頃、宇宙やロケットに興味を持ちましたが周りから「宇宙の仕事なんてお前には無理だ」と言われ続けてきました。でも負けませんでした。植松さんはいいます。「どうせ無理という代わりに、だったらこうしてみたら?と言おう」

人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとしいそぐべからず
~徳川家康~

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