笑う経営 平成29年2月

「門松は冥土の旅の一里塚、めでたくもありめでたくもなし」

お正月を祝ってたてる門松はめでたいものだが、門松を飾るということは歳を一つとることで、その度に人生の終わりに近づいていく。一休禅師の狂歌と言われている。

一里塚 青学 御嶽海一里塚は主要な街道に1里(約3.927キロ)ごとに築かれた塚で榎や松などを植えた。どのくらい歩いたか、旅人にとって目安になる便利なものだ。長い旅の先を考えれば苦しくなるけれど、あと一里、あと一里と次の一里塚をめざしつつ歩けば、いつの間にか長い旅路を歩けてしまうことだろう。

「くたびれたやつが見つける一里塚」なんていう川柳があるくらいだから、きっと次の一里塚まで頑張ろうといって歩いたに違いない。四キロ毎ではないが、しまなみ海道のサイクリングロードにも、一キロごとに尾道出発であれば今治まであと◯キロの表示がされている。走る目安がつかめて、とても励みになった。

一里塚は江戸時代には主要街道に整備されたが、次第に壊れ、人が歩いて移動しなくなった今はそのほとんどが除去されてしまった。そんな一里塚も言葉の上では残っていて、転じて大きな仕事の達成度や目標へ向かう途中の段階を達成したことをさすときに使う。

人生に何も計画がなく、目標もなければ確かに一休さんのいうように、新年を迎えることは、ただ人生の終わりに近づいていくだけのことに思える。でも人生に目標があれば、それも大きな目標であるほど、その目標に一歩一歩近づいていくように新たな一年を迎えることができる。一年一年が人生計画の一里塚となるようにしたい。

そのためには計画を立て、目標を作ることが必要だ。今わが家では暮れから旅行の計画を練っている。今度の旅行は昨年のしまなみ海道後半戦である。前回は尾道~今治の中間地点、生口島を目指したが、計画はあくまで全線走破が目標だ。だから生口島達成は全線走破の一里塚といえる。

わずか4、5日ほどの旅行でも計画のあるとなしでは旅の充実度が全く違う。いや時間が限られているからこそ時間を無駄にできないので綿密な計画が必要になる。

計画と目標を持つと人は力が出る。そこに楽しさが加わると力は倍増する。駅伝の青山学院がいい例だ。今年はとうとう箱根駅伝3連覇を果たしてしまった。ちょっと前まで常勝だった某大学は、お坊さんの大学だけあってか、監督の叱咤も厳しく、難行苦行をしているような雰囲気に見える。それに比べて青山学院は監督、選手みんな明るくて楽しそうで、見ていて気持ちがいい。

青山学院の陸上部は創部96年と古い。箱根駅伝は過去に出場しているが2009年に再出場を果たしたのは33年ぶりのことだった。原監督の計画は、「3~5年で箱根駅伝出場、8年でシード権獲得、10年で優勝」というものだった。ところが3年目(2006年)の予選会では16位。出場が果たせなかったため、陸上部解散を迫られた。そんな中2008年、ついに予選会を突破し、監督就任5年目に出場。6年目に早くもシード権獲得。そして11年目に総合優勝を果たす。

原監督が徹底したのは選手自身の「目標管理」だった。原監督は陸上選手としてよりビジネスマンとして実績を挙げた人で、前職では「伝説の営業マン」と呼ばれるほど営業成績を出した。その経験を陸上選手育成に生かした。

原監督は「サラリーマン時代、ひとつの目標に向かってどう取り組んでいくのか鍛えられました」という。選手に目標管理シートを作らせ1年間の目標から一ヶ月ごとの目標、週の目標を書き込みグループミーティングで進捗をチェックする。どんな小さな大会でも目標を設定させ、到達度を確認するという、常に目標を明確にし管理するという習慣を身につけさせた。

監督は言う「自分自身で目標を決める、自分の言葉で書き込む。そうすることが自立につながる。今できることの半歩前を見つめながら少しずつ向上してくだけでも4年間ですごい成長があるはずだ」と。

今これを書いている時点で、大相撲初場所が行われている。長野県出身の御嶽海が2横綱2大関を破り快進撃を続けている。

長野県には雷電為右エ門(1767~1825 東御市出身)という大相撲史上未曾有の最強といわれる伝説的な力士がいる。身長197cm、体重172kg(把瑠都と同じ。白鵬は192cm 155kg)大型力士が多い今でも大きいのだから、当時は比類なく大きかったに違いない。勝率.962 、わずか10敗しかしていない。

あまりに強かったため、突張り、張り手、閂、鯖折りを禁じられたという。

御嶽海にも雷電のような強い力士になって欲しいと期待をしてしまう。白鵬戦の前、御嶽海は白鵬とどのように相撲をとるかあれこれ考えるのが楽しいと語っていた。結果は白鵬の圧勝だったが、立ち合いもう少し右手を伸ばせばと、敗因をちゃんと分析している。彼は一つ一つの取組みに対し、対戦計画を立てて臨んでいるようだ。計画があるからこそ結果から学べることが多く、一戦一戦着実に強くなっていくことができる。

事業においてももちろん計画が重要だ。いや経営計画がないほうがおかしいとさえいえる。社長の一番重要な仕事は経営計画を立てることだ。この会社がどうなっていくのか未来像を示さなければ、社員が安心して働けない。計画を立て目標を設定し、実績と比較しなければ進歩、発展はない。

経営の舵取りに必要なものは経営環境を正しくつかむことである。特に市場、顧客をよく知ることである。駅伝ならコースの状況、相撲なら対戦相手の力や取り口だ。

御嶽海は稽古場では負けてばかりでほとんど勝てないそうだ。舞の海さんに言わせるとやる気がないように見えるという。さんざ負けて稽古を終えた御嶽海に感想を聞くと「今日もいい稽古ができました」とケロっとしているという。

もしかしたら勝てないというより勝たないのではないだろうか。稽古は勝つのが目的ではない。実力をつけるためのものだ。彼は相手の取り口からどうすれば勝つのか、何をすると負けてしまうのかを学んだり、自分に欠けている力は何かを考えて稽古に臨んでいるのではないだろうか。

同様に事業経営は社長自らが明確な方針と目標を持つことで初めて活力が生まれる。目標には人間を意欲的にさせる不思議な力がある。だから経営者が自らの事業をよく分析し、会社の方向付けをすることで道は開けるのである。

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