笑う経営 平成28年8月

出前・古くて新しいビジネス

warau201608暑い夏の日が続いています。こんな時は冷たいものが一番ですね。今でも思い出されるのは子供の頃、いつもラーメンや丼ものの出前を頼んでいた近所の食堂から、母がかき氷の出前を頼んでくれたことです。

かき氷の出前って、すごくないですか。運んでいるうちに溶け出してしまいますよね。でも岡持ちから出された赤いシロップのかかったかき氷は、さほど溶けることなく届けられ、家にいながらにして涼味を満喫できました。

また当時はお昼頃お客様が見えると、よく出前を頼んでいました。お客様が食べずに帰られることも時々あって、そんな時は期せずして五目ラーメンなどにありつけるのでした。

warau201608-2実家の隣はお寿司屋さんでした。隣なのにいつも出前を頼んでいました。食べに行った記憶はほとんどありません。美味しいお寿司を出す市内でも有数のお店で、ご近所だけでなく、市内外から広くお客さんが来ていました。

10年ほど前、珍しく家族で食べに行って、久しぶりにカウンターでお寿司を堪能しました。社長の握るお寿司は相変わらず絶品でした。その一週間後、衝撃的なことが起こりました。お店が突然閉店してしまったのです。これからお寿司の出前をどこに頼めばいいのか困りました。

以前は食堂の店主が、岡持ち片手にバイクを飛ばす姿を見かけたものですが、この頃はすっかり見なくなりました。出前という販売方法が廃れてしまったのかというと決してそうではなく、今でも健在です。今は出前といわず、宅配とかデリバリーというようになり、これまで以上に盛んになっています。

ピザやお寿司はもとよりお酒、食料品、書籍、日用品、生花など、伝統的にはお医者さんの往診や家庭教師も出前形式ですし、宅配されないものを探すほうが難しいくらいです。

地元の国立大学では大学の講義を県内に出前する「出前講座」を行っています。アマゾンではお坊さんの出前、自宅・お墓などに法事法要を行う僧侶を手配するサービス『お坊さん便』を始めています。全日本仏教会は、宗教行為を一般サービスのように商品化しているとして難色を示しているようですが、価格が手頃で明瞭であるし、菩提寺を持たない家、檀家のいないお寺が増えているとあって、利用者や登録希望の僧侶ともに増えています。法事は宗教というより儀式サービスと割りきったほうが良さそうです。

宅配寿司トップの「銀のさら」はレストランエクスプレス社が展開する宅配ビジネスです。つまり出前専門のお寿司屋さんといったところでしょうか。ただし握るのはプロの寿司職人とは限りません。
街のお寿司屋さんもたいてい出前をやっていると思います。こちらは握るのはプロの寿司職人ですが、宅配寿司が成長してます。寿司屋の出前と宅配寿司。違いは何でしょうか。

時々ポスティングされる銀のさらのメニューはというと、紙質も印刷も上質で高級感があります。最大の違いは写真です。お寿司の写真で、どんなネタが食べられるか、どのくらいの量かが一目瞭然です。しかもおいしそうに盛りつけてあり食欲をそそります。もちろんインターネットでも注文できます。

いま手元に、近所のお寿司屋さんの出前用のお品書きがあります。お店に食べに行った時にもらってきました。美味しいお寿司でした。お品書きはB5版の白いコピー用紙一枚にお寿司のリストと金額が書かれただけです。印刷もややかすれています。

単に文字だけで「特上すし 2,520円」と書かれていても美味しさが伝わりません。何がどのくらい食べられるのかわかりませんし、「宝すし 1,730円」とどう違うのかもさっぱりわかりません。宅配寿司のメニューを見てしまえば、これでは出前をとる気にはなりません。出前需要が街のお寿司屋さんから宅配寿司に奪われてしまったのも当然でしょう。

宅配サービスの最たるものといったら生協です。毎週カタログを渡され、それを見て注文し、一週間後に届けられるシステムです。目の前にスーパーがあるところに住んでいますが、やはりスーパーに置いてないものがありますから生協も利用しています。生協のカタログも全品写真付きです。しかも、カタログの数の多いこと。多すぎで見るのが疲れるくらいです。

生協と同様のシステムで有機野菜や自然食品を中心に扱う宅配サービスも利用していました。こちらは写真のあるものとないもの、あってもモノクロ写真だったり、カタログが不鮮明だったりして、選びづらさを感じていました。

そのためか、このサービスは加入者が思うように伸びず、配送コスト削減のため週一回の定期配送をやめてしまいました。ファックスで注文できるのですが、カタログが有料で、しかも送ってもらうのにも送料がかかってしまいます。ますます利用者が減るのではないでしょうか。

物を売るのには5つの方法があります。店頭販売、訪問販売、媒体販売、配置販売、展示販売です。媒体販売の代表は通信販売です。顧客がカタログをみて注文する形式の宅配も媒体販売です。媒体販売においては、カタログ、チラシ、DM、お品書き、サイトなど媒体の良し悪しが第一の決め手になります。

インターネットの普及、物流の進化によって、あらゆる事業も媒体販売の要素を取り入れるようになってきました。また生協のように直接自社で配送する場合は、配送員に訪問販売の要素を持たせることも重要です。単に注文品を届けるだけでなく、といって何かを売り込めということでなく、お客さんとの人間関係を作ることが大事だということです。

いろんな飲食店と提携し、受注と宅配を代行する「出前館」という会社が成長しています。飲食店は自前で出前しなくていいので楽ですし、ユーザーもお寿司、ピザ、ラーメンと別々のお店に頼まなくても、一括して頼めるので便利です。

街にある様々なお寿司屋さんを一括してカタログにして出前するビジネスがあれば、食べ比べの楽しみが生まれます。もしかしたら宅配寿司に対抗できるかもしれません。

ところで「そば屋の出前」という言葉があります。物事が遅くなったときの安直な言い訳のことをさす慣用句です。

このニューズレターの原稿は出来次第メールで送るのですが、今回は締め切りを2日ほど過ぎてしまいました。案の定、督促がきました。「あれ2日前メールで送ったけど。まだ届いてない?回線が混んでいるのかなぁ」と、そば屋の出前で切り抜けようと思いますが、無理だよね。

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