日本の多様性
米国、カリフォルニア出身で、山形弁研究家の肩書を持つダニエル・カールさんは全国各地で講演活動を行っています。6月18日は松本市で講演会(市民タイムス主催)がありました。
演題は「ガンバッペ!オラの大好きな日本」ダニエルさんは1時間半+10分オーバー、100分間喋り通しで、日本の良さを熱く語ってくれました。もちろん山形弁で。
ダニエルさんが最初に日本に来たのは高校生の頃、奈良の智弁学園に一年間留学した。その後大学の時に再留学。この時は大阪、京都、佐渡と移り住みながら日本の文化に触れた。
最初の奈良の時は日本語がほとんどわからなかったので、当然ながら奈良の言葉が標準語と違うことなどわかるわけがない。奈良弁であることは後で気づいた。二回目の時は大阪弁、京都弁、そして佐渡弁とみんな言葉が違うことに面食らう、と同時に日本のある素晴らしさに気づく。それで益々日本が好きになったという。
バラエティー
それが「バラエティー」(多様性・色々様々)
(ダニエルさんは左手で大変上手にカタカナで板書し、ヴォラェァティと一度思いっきり英語っぽく発音してみせた)
日本とカリフォルニア州はほぼ同じ面積。だがカリフォルニアに方言はない。どこも同じ言葉だという。日本は同じ関西の中でも違う。それにとても驚いたそうだ。
一度標準語を習いたいな~と思っていたが、アメリカの大学を卒業して仕事で日本に来たときの赴任地は、山形だった・・・。またしても、である。
東京で研修を受け、山形に向かう前にみんなに言われたことが、
「山形ですか!山形は大変ですよ。雪が年中こんなに(1メートルくらい)あるんですよ」と言われ、あわてて東京で冬物を買い込んだ。
山形駅に着く直前、列車のトイレの中でセーターやら何やら5、6枚着込み、ズボンンも重ね履きし、帽子をかぶって完全防備。相当怪しげないでたちとなったダニエルさんが山形駅のホームに降り立った時、仰天した。
「暑~い!!」
それもそのはず、赴任したその日は7月4日!だった。
「東京の先生に騙された!」
さて、山形の街を歩いていると、聞きなれない、というかあり得ない日本語が聞こえてくる。ダニエルさんは「ん」で始まる日本語はない、と教わっていたのに、何だか「ん」「ん」とあちこちから聞こえてくる。それは「んだ」(そうです)とか「んにゃ」(そうじゃない)という山形弁だった。それからすっかり山形弁にとりつかれ、山形弁研究家となるに至ったのだ。
言葉一つとっても日本はこんなにも豊か、バラエティーに富んでいる。食文化もすごい。東京から東日本は味付けがしょっぱい。関西はうす味。西日本は甘い。漬物の漬け方も地域によって様々で、山形市内でも違う。隣の家とも違う。なのにカリフォルニアはどこへ行っても皆同じ味。
四季がはっきりしているのにも感動した。特に秋の紅葉は素晴らしかった。カリフォルニアの特に南部は一年中10カ月くらいが夏のように温暖で、残りの二か月くらいで、秋冬春がタタタっと過ぎていくという。
さすがに冬の豪雪にはこたえたが、雪かきや雪下ろしのやり方を教えてもらったり、カマクラをつくったり、スキーを習ったりなど、雪国ならではの冬の過ごし方を体験できた。
ここまで聞いて面白いなと思ったことは、日本は単一、アメリカは多様と言われているのに逆ではないかということ。日本はとかく画一的で、集団を重んじ、自分の個性を出さない。他の人と違うことはせず、同一であることに安心する、と言われてますよね。
アメリカは個人主義で、個性を出し、むしろ他との違いを出すことに価値を感じるはずなのに、言葉や味付けに地域差がなく画一的。なんだか逆ですね。
美点に気づくこと
自慢と謙遜
長野もそうだが山形は果物王国で漬物王国、山菜王国。米どころで、食べ物は豊富でおいしいし、景色はいいし、人々は優しい。自慢できることがいっぱいある。なのに山形の人は
「何もゴザイマセン」
と謙遜するけれど、長野の人も同じじゃないですか?とダニエルさん。
(ダニエルさんは左利きのアメリカ人にしんにょうはキツイといいながら漢字で板書)
自慢できることを自慢することは素晴らしいこと。謙遜も美徳。自慢と謙遜はシーソーのようで、バランスをとることが重要。
自慢をするには自分たちの強味を勉強したり、それを表現したり伝えたり、エネルギーが必要だ。今の日本人はバブルがはじけてからエネルギーを失ったのか、自信を失い、エネルギーのいらない「謙遜」に傾いている。謙遜は美徳だけれど、自信を失ったゆえの謙遜では心がこもってない。心がこもってなければ美徳にならない。
交通網 教育制度
日本全体でいえば、日本が世界に自慢できることは多々あるけれど、ダニエルさんは次の二つをありあげた。
(うわ、またしんにょう、網の右は岡のようだけどちょっと違う、といいながら漢字で板書)
日本全国に整備された空路、鉄路、それに接続するバス、タクシー。そのおかげで日本のどこへ行っても日帰りができる。カリフォルニアではそうはいかない。しかも日本の列車は分刻みで時間通り発着する。外国では列車が時間動くことすら期待していない。
こんな国はない。皆さん、列車が定刻に動いていることに、JRや私鉄の駅員さんに感謝していますか?感謝どころか、台風の影響で新幹線が5分遅れたことに激怒している人がいた。その駅員さんが台風を呼んだわけでもないのに。5分遅れたことに怒るなら、定刻に動いた時には「ありがとう」と感謝すべきだ。
日本はだれでも教育を受けられる。受けようと思えば平等に受けられる。受けたくなくても受けられる。
外国ではそうはいかない。所得水準、地域、民族、性別などで教育を受ける権利が限定されている。そんな国がほとんど。
日本の識字率は99%。しかも常用漢字、ひらがな、カタカナにローマ字まで、全部あわせれば2,000文字も覚えなければならないのにこの識字率。アメリカはアルファベット26文字なのに96%。
義務教育が始まったのはアメリカよりちょっと早いし、江戸時代からはじまった寺子屋による庶民教育もすばらしい。
最近外国のテレビ番組で、驚くべき日本の常識をリポートする番組あるという日本のテレビ番組がリポートしていた。
ガソリンスタンドのサービスの良さはエジプトではあり得ない。郵便物の仕分けの速さなども話題になっている。日本で当たり前のことでも世界ではいい意味で非常識なことはいっぱいある。自慢すべきは自慢しよう。
ダニエルさんのお話にはいい気づきを得ました。海外旅行に行ってくると改めて日本の良さに気付くというけれど、外からの眼を通すと、私たちには当たり前になっていて全く気付かない良い面に気づかせてくれます。
同じように、自分が住んでいる地域や会社の強味、長所に気づかなくなっている可能性が高いです。見えなくなっている最たるものは自分自身です。自分のことはネガティブなことばかりが目について卑下しがち。一人ではなかなか気づかないことでも、他人から見ると美点がわかります。まずはあなたの周りの人の美点を見つけてあげて、気づかせてあげることから始めましょう。今度は相手があなたの美点を気づかせてくれるでしょう。そして自分の自慢できる点を認識した上で、謙遜の美徳を使いましょう。