笑う経営 平成27年7月

自分に向き合う

warau201507昨年韓国のフェリー転覆、6月は中国で船が転覆する、タイタニック号の悲劇に似た船舶事故が続いた。

映画タイタニックをご覧になっただろうか。その一場面のように今沈みつつある客船があるとする。乗客はまだその事を知らない。そんなのんびりしている乗客に乗員が声を掛けていく。

あるイギリス人にはこう言った。「今逃げれば、あなたは神様です」 次にフランス人には「今逃げればあなたはスマートです。かっこいい!」ドイツ人には「今逃げることはあなたの義務です」イタリア人には「今逃げればあなたはもてますよ」アメリカ人には「今逃げればあなたはヒーローです」そして日本人には、「みんな逃げてますよ」

日本人の横並び主義、周囲を気にし、人に影響されやすい国民性がからかわれている。スポーツでも経営でもライバルが気になるところだが・・・。

warau201507-2横綱白鵬は今年の初場所で、5場所連続、33度目の優勝を果たし、尊敬する大鵬の優勝32回という大記録を抜いた。続く3月場所でも優勝を34回に伸ばしたが、5月場所でついに優勝を逃し、連続優勝も切れた。結果は11勝4敗。

千秋楽に勝てば、優勝決定戦で逆転するチャンスはあった。しかし千秋楽、白鵬が日馬富士に敗れ、照ノ富士が12勝3敗で優勝した。わずか1勝だが、白鵬にとっては大きかった。

元NHKアナウンサーの杉山邦博さんは、優勝決定戦はないと予想していた。というのも白鵬にはもう優勝決定戦まで持ち込む気力が残っていなかったからだ。なぜ白鵬に気力が抜けてしまったか。

その理由は皮肉にも大鵬の記録を抜いたことにある、と杉山さんは言う。ずっと何かに打ち込んできて、それが完成したり、一つのイベントを成し遂げると、しばらく気が抜けることがある。白鵬にとって大きな大きな目標を達成したことが、目標を見失わせ、心に穴が空いたような状態に陥らせてしまった。

「これから自分は何をしたらいいのかわからない」と周囲にもらしていたという。だからといって簡単には辞められない。杉山さんは、横綱の責任の一つに「後継者を育てる」という責務があるという。歴代横綱も、自分が引退したあと、場所を引き継ぐ力士、言い換えれば自分を倒す力士が現れ、これなら大丈夫と確信できた時点で引退している。

燃え尽き症候群という症状がある。「燃え尽き」とは、自分が最善と信じて打ちこんできた仕事、生き方、対人関係の持ち方が、まったく成果をあげられず、期待はずれに終わったときに起こる疲れ切った状態だ。

パソコンで時間をかけてやっと文章が完成したのに、間違った操作をして消してしまったことがある。そんな時は、どっと疲れが出る。せっかく苦労して作業をしたのに、ちょっとしたヘマで、今まで苦労が無駄になったとき出る疲れの激しいのが燃え尽き症候群なのだろう。

一方白鵬のように完全燃焼して、しっかり成果をあげた場合でも気力が萎えてしまうことがある。疲れとは違い、目標がなくなったことによる空虚感だ。これを防ぐには目標を外に置かず、自分の中に置く。人間は永遠に不完全だから、どこまで行っても目標はなくならない。つまり、目標を失くさないことが、ずっと気力を保ち続ける秘訣といえる。

似たことを杉山さんも言っていた。強くなる力士は「相手に勝とう」と思うのではなく、「自分は負けないぞ」という姿勢を持っている。自分は負けないと思うと自分に向きあうことになり、謙虚になる。 相手に勝とうとすると、立ちあい変化したり、策を弄して勝とうとする。相手を研究することが主になると、自分の技術を磨くことがおろそかになる。だからいつまでも実力がつかない。強くなりたかったら正攻法、王道をいくことだ。

 

ライバルを間違えない

ライバルばかり見ていると、ライバルに振り回され、自分を見失ってしまう。自分に勝てばおのずとライバルに勝てる。日本の武道でも、自分に克つ「克己心」という精神を大切にしている。

ハンバーガー業界でトップといえばおそらくマ社だろう。1971年、マ社は1号店を銀座にオープンする。

一方、独自の経営でハンバーガー店を展開するモ社は1972年、板橋区に1号店を出す。この店では人材を育てることに重点をおいた。ここで教育した社員やアルバイトは日本一のスタッフであると自負できるほど、誰もが欲しがるような人材を育てていった。アルバイト全員が店長やマネージャーと同じマネジメントができる。家族のような結束力が培われ、人が辞めることもない。逆に「働かせてください」と頼みに来るくらいで、簡単には入れない精鋭ぞろいの店になった。

1978年、ついに通りを挟んで向かい側にマ社が出店してきた。 開店以来最大の危機だった。商店街の人たちも、絶対モ社が潰れると思ったという。

マ社の立派な建物で、工場のような店に対し、モ社は小さい家の台所のような店。見た目には圧倒的に負けているように見えたが、モ社の店長は特に何もせず、オープン日の前日、スタッフに言ったことは、「とにかく掃除をいつも通りきちんとやろう。店内もご近所もいつもと同じように掃除し、商品は気持ちを込めてお客様にお渡ししよう」といった程度のことだった。

そしてマ社が開店した日、なんとモ社の売り上げは平日の新記録をあげた。翌日も、その翌日も売上は順調で結局、その月の売上はマ社の店を上回った。

「地元で自分たちが応援してきたモ社がマ社のせいで無くなるのは困る」ということで、1週間に2回来ていたお客様が3回も4回も来たからだった。

なぜなら創業から6年間、モ社がずっとやり続けてきたことは「お客様との信頼関係を育てる」という地域に密着した店づくりで、スタッフとお客様に連帯感が培われていたからだ。

モ社にとってマ社はハンバーガーの同業者ではあるが、ライバルとは考えなかったため、自分の立ち位置を見失わなかった。同業他社を安易に自社の競合店と見定めてはならない。

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