笑う経営 平成26年8月

1)夕立モンスター

 

夕立が洗っていつた茄子をもぐ (種田山頭火)

 

20140801夏の午後の風物詩といえば「夕立」。このところ局地的に発生する短時間強雨は、茄子を汚れを洗い流すなどという生易しいものではない。洪水や土石流によって家ごと洗い流してしまう。南木曽では犠牲者も出てしまった。

ゲリラ豪雨とも呼ばれる短時間強雨は、短時間とはいえ数十分で終わる夕立に比べれば圧倒的に長時間だ。一日に一ヶ月分の雨が降るという、モンスター化した夕立が、観測記録を各地で塗り替えている。

雨が降れ、などと軽々しく口にできない。童謡のあめふり(北原白秋・中山晋平)や、八代亜紀の雨の慕情(八代亜紀、阿久悠・浜圭介)を歌うのがはばかれるほど、今や雨は怖い存在だ。

水の脅威は以前にも話題にしたが、今回は水の分子(H₂O)を構成する原子、水素に焦点をあてる。

2)水素の燃料化

1997年、東京モーターショーにトヨタ自動車はある新型車を発表した。燃料電池車(試作車)である。トヨタは2005年までに燃料電池車を量産すると宣言した。2002年、トヨタとホンダは燃料電池車の市販第一号を日本政府に納入し、当時の小泉首相が試乗した。

2008年、車両用の燃料電池開発がいよいよ本格化し競争が激化し始める。いづれ枯渇する石油。しかも輸入に依存、CO₂の問題、産油国の政情不安など、脱石油、脱ガソリンは日本にとって悲願の目標だ。

トヨタ自動車が燃料電池車の量産を計画した2005年に遅れること10年、ついに2015年3月に燃料電池車(FCV)の乗用車を一般に発売する見通しとなった。値段は700万円程度。政府は補助金を出す方針にしている。いよいよ水素エネルギーの時代が到来する。

3)水素の活用

水素原子(H)hydrogenは、文字通り水を生ずるもの、という意味で、宇宙空間に最も多く存在する元素である。地球上の水素は、大部分は海の水として存在し、地殻の中でも酸素、ケイ素に次いで3番目に多い。

人体内では、人体の60%を占める水分として以外にも、タンパク質、核酸(タンパク質の設計図)の働きにも、身体を動かすエネルギーを作るにも水素が活躍している。

もちろん水素は工業的にもすでに使われている。最大の用途はアンモニアの合成。身近なところでは油を固める性質を利用してマーガリンや口紅を作るのに使われる。

水素は燃えて水になるので究極のクリーンエネルギーとして期待されてきた。水素は酸素と混ぜて火をつけると爆発的に燃える。液化水素はロケット燃料に使われている。水素を直接燃やしたパワーで走る水素自動車も研究されている。今後は航空機や船舶の燃料にも使われるだろう。

燃料電池は水素を燃料として発電する装置。燃料電池車は水素によって発電した電気で走る電気自動車だ。燃料電池車が普及するのに欠かせないのが水素を補給する「水素ステーション」だ。その第一号が7月、尼崎に誕生している。

今後、エネルギー会社10社と自動車メーカー3社で、2015年までに全国に100ヶ所の水素ステーションを作る事業を立ち上げた。

燃料電池の発明は古く、1801年にイギリスのデービーによって原理が考案されている。今の燃料電池の原形は1839年、同じくイギリスのグローブによって作られている。燃料電池の実用化で車をはじめ発電の仕組みが大きく変わって石油や原発に頼らなくてもよくなれば万々歳である。

4)水素の悪用

地球に豊富にある水素が人々の生活に役立つように活用されることはうれしい限りだが、水素の働きが素晴らしいものであればあるほど、一たび悪用されたら人類を脅かす恐ろしい存在に変わる。その際たるものが水爆だ。

1954年3月1日、太平洋上のビキニ環礁で操業していた第五福竜丸が米国の水爆実験に巻き込まれ被爆するという事件が起きた。水素どうしが合わさって原子核の質量が増え、ヘリウムになる時、エネルギーが大量に放出される。この化学反応(核融合)を応用した核兵器が水爆である。

核融合は放射能が出ないため未来のエネルギーとして期待されている。しかし水爆は核融合を引き起こす起爆装置に原子爆弾が使われているため放射能が出る。そのため、第五福竜丸他漁船数百隻が被爆した。

ニトログリセリンからダイナマイトが作られ兵器が開発されたように、核技術も原水爆を生んでしまった。莫大な費用がかかるにもかかわらずである。人間にはどうして技術を軍事利用しようとする習性があるのだろうか。ちなみに原発と原爆の原理は同じである。

第五福竜丸が被爆した頃、東宝のプロデューサー田中友幸は悩んでいた。企画していたインドネシアとの合作映画の撮影が外交上の理由でできなくなったのだ。合作映画を断念した田中は、急きょそれに代わる企画を考えなければならなくなった。

ちょうどそのころ福竜丸の事件によって、原水爆が社会問題になっていた。また田中は円谷英二と特撮映画を成功させていた。そこでビキニ環礁海底に眠る恐竜が、水爆実験の影響で目を覚まし、日本を襲う」という、モンスターが登場する特撮映画を発案した。当時、東宝にクジラとゴリラを合体した、グジラというあだ名を持つ人がいて、それをヒントに怪獣は〝ゴジラ〟と命名された。(こじつけという説もあり)

1954年11月、ゴジラ第一作が公開された。60年前のこの作品を改めて観ると、非常にメッセージ性が強い映画であることがわかる。決して子供向けの娯楽映画ではない。ゴジラに破壊される東京の街の姿に、戦争の悲惨さ、原爆の恐ろしさを重ね合わせ、核開発の危険性に警鐘をならし、科学技術の軍事使用を戒めている。

青年科学者 芹沢博士はゴジラを倒すために、発明したオキシジェン・デストロイヤーの使用を求められるが拒否する。期せずして発明してしまったこの技術を公表すれば、恐ろしい第三20140801-2の兵器として軍事利用されるかも知れないからだ。だがテレビに映る被災者たちの姿、「平和への祈り」に、最後は使用に応じる。しかし芹沢は発明の悪用を恐れ、断末魔の悲鳴を上げながら溶けて白骨化していくゴジラと運命を共にする。

普通なら怪獣を倒し、勝利した喜びが湧く中、明るくハッピーエンドとなるはずだが、この映画はそうはならない。何か重苦しいものが残る。ゴジラ自身、水爆実験によって被爆し、放射能を吐くモンスターにされてしまった被害者なのだ。原作者 香山滋は試写会で、苦しみながら溶けていくゴジラが哀れで泣いたという。

映画の最後、古生物学者 山根博士のつぶやきには核開発への警鐘が込められている。映画公開から60年、現実の日本には本当に原発事故というゴジラの同類が出現し、今まさに危険にさらされている。

5)水素の恩恵

20140801-3実は皮肉にも地球は水爆と同じ原理の恩恵を受けている。太陽である。
太陽の構成を見ると、太陽は水素の巨大な塊に他ならない。太陽が熱く燃えているのは水素の核融合による。太陽は地球を生かすけれど水爆は地球を破壊する。同じ核融合でも働かせ方によって正反対になってしまう。

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