みすず通信 第5号

一、実効支配

現在、中国や韓国との間で尖閣諸島や竹島の領有権を巡り対立が深まっています。いうまでもなく、領土は正に国の根幹ですから、国民感情の高まりとともに、双方の国益が衝突し緊迫した情勢になっています。

日本政府は、竹島問題で国際司法裁判所への提訴を検討していると報じられています。本来、こうした司法判断による平和的解決が望ましく、過去には領土問題が解決された例がいくつもあります。

しかし、国際司法裁判所が審理を行うためには両当事者国の同意が必要であり、韓国は同意をしないと決めているようです。両当事者国の同意を必要とするのは、国際社会においては国の主権を越える統治権(裁判権)が存在しないからです。

ですから、国際社会では、韓国が実効支配を続けている竹島を日本が支配するようになることは至難の業であり、一方、尖閣諸島の実効支配を継続することが重要となるのです。

こうした領土問題の解決のためには、長期的かつ継続的な戦略のもと、冷静沈着な状況分析にもとづく毅然とした行動と柔軟な対応が求められているように思います。是非とも関係当事者国が理性的に行動し、平和的解決に至ることを心から願っています。

二、親権を巡る争い

ここからが本題ですが、国同士の領土を巡る紛争は、離婚にともなう親権を巡る紛争で子供を取り合う状況と似ているように思います。

最近、片方の親が他方の親に無断で子供を連れて実家に戻るなどして、子供を養育している実績を積み重ねようとすることが目につくようになりました。

misuzu5-1その背景には、裁判所が親権の判断において現状維持を重視しているからと思われます(裁判所は現状維持を重視しているとは明言しませんが、そうした傾向があることは明らかです)。つまり、現在の養育環境を変えなければならないような格別の事情がない限り、現状を維持するという判断です。しかし、明白な虐待でもない限り、格別の事情が認められることはないでしょう。

ですから、先に子供を養育しているという状況を作り出した方が有利というわけです。

三、適切な親権者の判断に向けて

しかし、こうした傾向は子供の福祉の観点から間違っています。

子供を一方の親から引き離すことは、それ自体が虐待というべきです(勿論、DV夫の被害から逃れるために緊急避難するような場合などは別です)。ですから、子供を一方の親から引き離した親はそれ自体で親権者として不適格とすべきです。

また、早い者勝ちを許すことになれば、子供の奪い合いを助長しかねず、子供にとってますます悲惨な状況になりかねません。

こうした事態を防ぐために、裁判所は現状維持という安易な考えを捨て去り、真に親権者として相応しい親はどちらかを真摯に探究するという姿勢を示すことが必要です。そもそも、子供を奪った親を有利に扱うことは子の生育に両方の親が必要だとして面会交流を推進する考え方と相容れません。

因みに、領土問題を扱う国際司法裁判所の判断基準には、紛争が発生した後に形成された領土支配は考慮しないという原則があります。これに倣い、親権問題を扱う裁判所は、離婚問題が発生した後に形成された養育状況は考慮しないという原則を貫くべきと考えます。

何よりも、離婚後は片親だけを親権者とする現行民法が諸悪の根源であり、共同親権に向けた一刻も早い法改正が望まれます。

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後記(ご挨拶)

これまで司法の世界は市民生活とはかけ離れた存在で、弁護士も市民からは遠い存在と思われてきました。しかし、裁判員裁判が始まり、司法の世界が今までよりも身近になっていくように思います。
そんな時代の流れのなかで、私たちも、「社会生活上の医師」として、暮らしの中で起こる様々な法律問題を解決するための身近な存在になりたいと考えています。そのためには、弁護士からも積極的に情報発信していくことが必要だと考え、「みすず通信」を発行しています。
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