みすず通信 第7号

インターネットの普及とネット被害

現在、パソコンの普及とともに、インターネット利用者数は膨大になっています。総務省の統計によると、日本では平成22年度のインターネット利用者は、9462万人と、実に、総人口の78.2%にも相当します。私も日常的にインターネットを利用しています。居ながらにして弁護士業務に必要な様々な情報が入手できる、とても便利なツールです。

しかし、電子掲示板と呼ばれるサイトでは、ひどい誹謗中傷が書き込まれ、名誉などを侵害されるケースがまま見られます。私も、こうしたネット被害に遭った人からの相談を受けることがあります。

しかし、匿名での書き込みであるため、誰が書き込んだものか分かりません。果して、匿名の書き込みにより名誉などを侵害された被害者は救済されるでしょうか。

 

プロバイダ責任制限法

被害者救済のために匿名の発信者(加害者)の個人情報(住所、 氏名など)について開示請求を定めた法律があります。通称「プロバイダ責任制限法」といわれ、平成13年に制定されました。

この法律では、発信者情報の開示を求めることができる要件として、「権利の侵害が明らかであること」と定めています。裁判例によると、書き込まれた内容が事実に反し、かつ違法性阻却事由(違法でなくなる事由ということで、刑事事件における正当防衛などがその例です)がないことを証明しなければならないとされています。

このように、開示要件が厳しくなっているのは、表現の自由を保護するためとされています。

大変なのは要件だけではありません。

通常、電子掲示板への書き込みは次のような流れとなっています。発信者(加害者)→経由プロバイダ→電子掲示板サイト→受信者そこで、電子掲示板サイトの運営者に経由プロバイダを明らかにする情報の開示を求め、そのうえで経由プロバイダに発信者情報の開示を求めることになります。通常、発信者情報を把握しているのは掲示板サイトの運営者ではなく、経由プロバイダだからです。

しかし、電子掲示板サイトの運営者も経由プロバイダも情報を保存している期間が3ヵ月から6ヵ月と短く、その間に経由プロバイダに情報を保存させる法的手続をしなければなりません。

このように要件が厳しいだけでなく、手続も非常に大変なため、被害者の多くが泣き寝入りすることになりかねません。

 

健全なネット社会の構築に向けて

思うに、インターネットは社会(全世界)に開かれたものであり、そこにおける意見表明は公なもの(社会的行為)です。そうした意見表明に責任を伴うことは当然であり、本来、ネット社会は匿名社会ではないと思います。

インターネットは民主主義にとって重要な意見表明の場になる可能性を秘めていますから、表現の自由の保護は大切なことです。しかし、被害が救済されない社会に人は安心して住むことはできませんし、ネット社会は発展しません。

ネット社会の健全な発展のためにも、被害救済と表現の自由のバランスを今一度見直す必要があると思います。

後記(ご挨拶)

これまで司法の世界は市民生活とはかけ離れた存在で、弁護士も市民からは遠い存在と思われてきました。しかし、裁判員裁判が始まり、司法の世界が今までよりも身近になっていくように思います。
そんな時代の流れのなかで、私たちも、「社会生活上の医師」として、暮らしの中で起こる様々な法律問題を解決するための身近な存在になりたいと考えています。そのためには、弁護士からも積極的に情報発信していくことが必要だと考え、「みすず通信」を発行しています。
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